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2022.09.29 SUPER GT

鈴鹿サーキット初制覇と5年ぶりの優勝を飾る!【GOODSMILE RACING & TeamUKYO】

SUPER GT Round5 SUZUKA

富士スピードウェイで開催された前戦「FUJI GT 100 LAP RACE」では、4号車グッドスマイル 初音ミク AMGが決勝終盤まで盤石のレース運びで首位を快走し、2017年シーズン開幕戦以来5年ぶりの勝利を誰もが確信した。しかし片岡選手が全力を注いだタイヤマネジメントも虚しく、最終スティント77周目の1コーナーのブーレキングで左フロントタイヤがパンク、これにより13位ノーポイントでレースを終える事となり、チームにとっては天国から地獄に突き落とされたような週末となった。
それから3週間を経て迎えた第5戦鈴鹿。今季2度目の鈴鹿サーキットは第4戦富士に引き続きレース距離450kmで行われる。今大会のMercedes-AMG GT3の性能調整(BoP/バランス・オブ・パフォーマンス)は、エンジンパワーを制限する吸気リストリクターが富士用の36mm×2から通常サーキット用の34.5×2へと戻された。BoP重量は第3戦の鈴鹿大会の時より5kg軽い+45kgとなったが、車両総重量はいつも通りクラス最重量の1330kg。4号車はこれに12kgのサクセスウエイト(=SW)を積む。

4号車グッドスマイル 初音ミク AMGの片岡選手はまずは5番手のまま1コーナーへと飛び込み、8番手スタートから順位を上げてきた55号車(ARTA NSX GT3)を抑えてポジションをキープ、130Rで一度前に出られるが続くシケインのブレーキングで抜き返し、まずはスタートの5番手をキープしたままコントロールラインに戻ってきた。
片岡選手はレースラップを想定どおり2分01秒台で重ね、直線速度に勝る国産GT3の55号車が背後に迫るものの、これを巧みなディフェンスで抑え込んでいく。同時に前を行く56号車(リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R)の背後に張り付き追い詰めるが、すでに100kgのSWを積みながらもコーナー立ち上がりの脱出加速に優れるGT-Rに対し、オーバーテイクの決め手がない状況が続く。
チームはコース上でのロスを回避するべく予定を早め16周終了時点で片岡選手をピットへ呼び戻す。ここで給油とタイヤ4本交換のフルサービスを実施すると、引き続き片岡選手ドライブのままコースに送り出した。この時点で16番手だが、同じタイミングでピットに入った55号車がタイヤ交換をせずに給油のみでピットアウトした為、前に出られてしまった。
この1回目のピットを終えた段階で「意外と自分たちが前にいたことは、うれしい誤算」だったと語った片岡選手。「無交換組に対して『どれぐらい引っ掛かるかな』と思っていたら、ほぼほぼストレスなくパス出来た。そこも大きかった」とレース後に振り返ったとおり、フレッシュなタイヤで19周目には2分00秒790の決勝自己ベストを刻みながらハイペースでライバルを追いかける。前を走っていた”スプラッシュ組”は、21周目の最終コーナーで20号車(シェイドレーシング GR86 GT)、27周目のヘアピンで52号車(埼玉トヨペットGB GR Supra GT)、32周目もヘアピンで2号車(muta Racing GR86 GT)をそれぞれ仕留める。33周目には再び相まみえた55号車を逆バンクで豪快にオーバーテイクし、義務ピット消化組の首位、つまり実質1位に浮上した。
直後にはデグナーでGT500クラスの先頭集団と遭遇してアウト側へ譲る場面もありつつ、2分02〜03秒の安定したラップを刻み続けた片岡選手だったが、前戦の悔しい経験から安全策を採り、予定よりわずかに早く42周終了で2回目のピットへ向かう。給油とタイヤ4本交換とドライバーを交代し、ここから谷口に最終スティントを託す。
ピット作業を終えコースに復帰したそのわずか2周後、130Rで244号車(HACHI-ICHI GR Supra GT)がタイヤバースト、コースアウトしてそのままタイヤバリアに突っ込む大クラッシュが発生した。これによりSC導入が宣言された為、これが「波乱の幕開けか」との思いが一瞬頭をよぎったが、すでに義務ピットを終えているこの日の4号車にとっては、背後に迫った55号車もケアしつつ、タイヤを労わることができて、追い風となる。
SC明け51周目のリスタートのタイミングで前方の11号車(GAINER TANAX GT-R)がピットへ向かい、まずは4番手へ。続くラップで96号車(K-tunes RC F GT3)をコース上でかわし3番手、その翌周には18号車(UPGARAGE NSX GT3)も義務ピットへ入り、ついに2番手へと浮上する。
そして60周目。最後までピットを引っ張っていた50号車(Arnage MC86)もピットインし、ついに谷口が”P1″を奪取。前戦の”リベンジ”に向け、これですべてのお膳立てが整う。64周目にはスタートからポジションを競り合った55号車がトラブルで戦列を去り、背後にはダンロップタイヤを履くポールシッター、10号車が迫ってくる。しかし「前回のこともあって、まったくもって不安だった。『ゴールまで行けるのか』っていうね。だからもう……全力でタイヤのマネジメントをしながら、最後のゴール前まで本当に祈った。目前で……また前回みたいなバーストとか、絶対ヤダし!」と、タイヤの感触とバックミラーに全ての神経を集中してゴールを目指した谷口。レース最終盤に周回遅れの5号車(マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号)に行手を遮られて10号車とのマージンを吐き出さされるピンチにも遭いつつ、それでも最終的には3.407秒までマージンを拡大して、72周目、遂に待望のトップチェッカーを受けてレースを終えた。
この結果は、GOODSMILE RACING & TeamUKYO、そして谷口/片岡の両選手にとっても、2017年開幕戦岡山以来となる5年ぶりの勝利であるだけでなく、同時にチームとしての鈴鹿初制覇というダブルのブレイクスルーとなった。
2年ほど前から、チームはドイツ本国のMercedes-AMG Customer Racing部門との連携を深め、今シーズン序盤からはHWA AGのパフォーマンス・サポート・エンジニアや、前戦よりストラテジー・エンジニアも招聘して体制強化を図ってきた。そんなチームにとっても「日本のサーキットやタイヤについて、彼らの理解が進んだことも影響していると思うんですよね。その成果がここに来て出た、っていうことなんじゃないかな」(安藝貴範代表)との確かな手応え、そして大いなる安堵を得る1戦となった。
「だけどこんな1回勝っただけじゃ、成果とも言えないんでね。みんな、まだ喜び切れてないのは『なんでだろうな?』みたいなところがあって。今回、周りのチームの様子も含めて分析し直す必要はありますよね。『こういう状況なら勝てるのかもしれない』っていう。そこを細かく振り返れば、多分なにか見えてくると思うんですよ。であれば、その状況を作ろうと」(安藝代表)
今大会の優勝で20ポイント獲得し、ドライバーズランキングは5位に浮上した。第6戦スポーツランドSUGOでは72kgのSWを搭載しBoP重量と合わせると、上位陣との重量差が大きくなり、ふたたび厳しい戦いが予想される。しかし、それでもチーム一丸となり残り3戦もさらに貪欲に勝利を狙っていく。
そして、ここ鈴鹿サーキットは、2008年8月に初音ミクGTプロジェクトがスタートして以来、10年以上に渡って勝利はおろか表彰台獲得もできなかった鬼門のようなサーキットでもある。その後2020年第6戦と2021年第3戦に表彰台獲得は実現したものの、どちらも3位で未だ勝利は無い。
これらの背景から、この週末、4号車が再びサーキットを沸かせる快走をする事になるとは事前には誰も予想していなかった。

事前の予報で天候の崩れが心配されていたが、土曜午前9時25分開始の公式練習は、気温30度、路面温度34度のドライコンディションで開始された。
片岡選手がいつものようにセッション走り出しを担当。走行開始早々の5周目に1分58秒949をマークしてクラス2番手とすると、続く周回でも1分58秒676へとタイムを更新。いきなりトップに立ちピットへ戻った。
履き替えたもう1種類の持ち込みタイヤに熱入れをしている間にトップタイムは塗り替えられていたが、10周目に1分58秒022とベストタイムを更新する。これでフィーリング確認は完了とばかりに早くもロングランへ移行すると、ここでも2分01秒台を並べる快調ぶりを見せる。

この段階で「パフォーマンス的には『勝てなくも……ないかな』と、そういう確認が出来て、でも『いやいや鈴鹿だし、そんなことはありえないだろう……』とも」と、片岡選手自身が半信半疑のまま21周を完了して谷口へとバトンタッチする。
谷口も引き続きレースラップの確認を行い、同じように2分01秒台の良好なペースを維持していた。10時50分からのクラス専有走行枠でも、予選シミュレーションではなくロングランを継続しタイヤの摩耗度合いを測り、占有走行終了間際の自身16周目には2分00秒861の自己ベストタイムをマークしつつ、周回を重ねた状態でも懸念していたペースダウンをすることなく18周を走破。こうして前戦に続いてクラストップタイムでセッションを終えた。

その後、公式練習中の赤旗中断などによる影響でスケジュールは20分遅れで進行し、公式予選は午後3時20分に開始された。
予選Q1ではエントリーしている27台をランキング順に2組に振分け、GOODSMILE RACING & TeamUKYOは今回B組に割り振られた。今回、Q1を谷口が担当し、公式練習でクラスベストタイムを記録した片岡選手にQ2のアタックを任せてポールポジション獲得を狙う。
午後3時38分、予選Q1B組開始。路面温度は39度まで上昇。この変化が、選択したタイヤコンパウンドにどのような影響を与えるかが注目される中、開始早々にコースインした谷口は、ウォームアップラップの間に前方の2台をパスし、クリアなスペースを確保してアタック。計測4周目に1分58秒674を記録し、残り時間約1分で暫定6番手とする。その後50号車(Arnage MC86)と20号車(シェイドレーシング GR86 GT)が谷口のタイムを上回り、4号車はカットラインの8番手まで後退してしまう。しかし、谷口は続くラップでも1分58秒646とわずかながらタイムを上げ、アタックを続けていた52号車(埼玉トヨペットGB GR Supra GT)を突き放し、無事8番手でQ1突破を果たした。
GT500のQ1を経て、片岡選手が午後4時13分からのQ2に挑む。ウォームアップの早い244号車が早々に1分56秒995の好タイムを叩き出して暫定トップとなる。各車が続々と1分57秒台のタイムを出してくる中、10号車(TANAX GAINER GT-R)が1分56秒941を記録してトップタイムを塗り替えてポールポジションを獲得。片岡選手は残り時間1分を切ったところで1分57秒664とこの日の自己ベストタイムを記録するが5番手に留まった。一時はポールポジションを狙っていたとは言え、「一番ネックの予選を5番手で終われたから、まあ『ワンチャンあるな』と」片岡選手が振り返るとおり、翌日の決勝で十分上位の狙える5番グリッド獲得で予選を終えた。

【8月28日(日)】
夏休み最後の週末だったこともあり、日曜日は前日に続き大勢の観客がサーキットに詰めかけていた。大盛況のピットウォークでは片山監督、谷口、片岡選手に、多くのファンから優勝を期待する声援がかけられた。午後1時10分からのウォームアップ走行では、スタートドライバーの片岡選手が決勝セットと燃料搭載量の確認をしつつ2分00秒台を並べ、決勝に向けて気合の籠ったドライビングを見せる。
チームは良好なレースペースを軸に、給油義務となっている2回のピット作業をレース距離”均等割り”を基本に、前戦とは異なりスタートから片岡選手のダブルスティントとし、最後のスティントを谷口に任せる戦略を採用した。
気温は30度、路面温度は39度まで上がり、日差しの影響で序盤戦はさらに温度上昇が見込まれた午後2時30分。三重県警の白バイ隊とパトカーに先導されてパレードラップが始まり、1周のフォーメーションを経て、いよいよ決勝レースがスタートする。

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