Mercedes-AMG GT3だが、新車投入 【谷口信輝選手 GOODSMILE RACING】
SUPER GTは2024シーズンも全8戦で争われ、今シーズンも岡山国際サーキットで開幕の日を迎えた。 GOODSMILE RACING & TeamUKYOは体制に変更なく、安藝貴範代表以下、監督に片山右京氏、ドライバーに谷口信輝、片岡龍也選手と磐石のメンバーで継続。引き続きヨコハマタイヤを装着し、マシンは変わらずMercedes-AMG GT3だが、新車が投入された。
今シーズンのGT300クラスは昨年から新たに3車種が加わり、15車種総勢27台がエントリーされた。異なる車種が参加するSUPER GTでは、できるだけイコールコンディションでのレースを実現する為に、BoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)で車両重量やエンジンパワーの調整を行う。加えてGT300クラスには『2024年安全性向上策』として、コーナリングスピードを抑制する事を目的に、「速度抑制策の追加重量」が加えられ、『最低重量+BoP重量+追加重量の合計』が車両重量とされることになった。これによりMercedes-AMG GT3には追加重量として39kgが加えられた為、『1285+45+39』kgの、合計1369kgと、昨年の開幕戦での総重量1320kgよりも更に49kg重い状態で開幕戦に挑むこととなった。
尚、SUPER GTの特徴でもある、レースごとの戦績に応じて課されるサクセスウエイト(SW)が昨シーズンまでは「獲得ポイント×3kg」で、最大100kgまで搭載していたが、今シーズンは「速度抑制策の追加重量」が加わった為に軽減され、SWは「獲得ポイント×2kg」に戻され、最大重量も80kgまでとされた。
その他、昨シーズンGT300では採用が見送られていたカーボンニュートラル・フューエル(CNF)を50%含んだ指定燃料『GTA R50』の使用義務付けや、持ち込みタイヤのセット数が1セット削減(今回の300km戦では5→4セット)など、競技規則にも多くの変更が加えられた。
4月13日(土)【公式練習、公式予選】
天候:Q1/Q2:晴れ コース:ドライ
気温/路面温度 GT300 Q1開始時:27℃/36℃ GT300 Q2時点:27℃/35℃ 終了26℃/35℃
9時30分、"晴れの国おかやま"の名に相応しい快晴の空の下、4号車グッドスマイル 初音ミク AMGは片岡選手のドライブで走り出した。
走り出しの時点で気温20℃、路面温度26℃と、1ヶ月前に同じく岡山国際サーキットでおこなわれた公式テストとはまるで異なるシーズン節外れの高温条件となった。これが災いしたか「持ち込みのセットアップがまるで機能せず(片岡選手)」、セッション開始と同時にコースインした4号車は少ない周回でのピットインを繰り返し、改めてセッティング作業を行うこととなった。セッティングは難航したが、このレースウイークに合流した新しいAMGパフォーマンスエンジニアからのアドバイスを元に、「迷って方向性が見えないなかで、ワラにもすがる思いで(笑)(片岡選手)」トライを繰り返す。結果、片岡選手は計測28周目に1分27秒405、続く29周目に1分27秒399と連続で自己ベストを更新、出口が見えはじめる。
10時55分からのGT300専有走行では谷口がステアリングを握り、1分28秒台を刻み、最終ラップに1分28秒137まで詰めて公式練習を終えた。
続く15分間のFCY(フルコースイエロー)テスト枠でも、さらにセット変更をおこない、「もう1ステップそちらに振れば『結構、イケる』んじゃ……」と、ある程度の手応えを掴み午後の予選へと臨んだ。
予選は、今シーズンより従来のノックアウト方式からQ1とQ2の『タイム合算方式』に改められた。開幕戦では前年度のランキングに基づいて振り分けられたA組とB組に分けられた。予選Q1A組・B組が終わると、それぞれの上位8台を集めた上位グループ"アッパー16"と、下位グループの"ロワー17"に分かれてQ2を実施する。そしてQ1Q2の合計タイム順に決勝グリッドが決まるというルールだ。ただし、”アッパー16”の下位4台(暫定13~16番
手)と”ロワー17”の上位4台(暫定17~20番手)の合計8台は、合算タイムに準じて更に入れ替えられる。複雑ではあるが、谷口・片岡両選手共にエース級の実力を持つ4号車には有利なルールとも言える。
コンディションは気温26℃/路面温度36℃と、サーキットは強い日差しに熱せられて4月の開幕戦とは思えない高温条件になっていた。
昨年度をランキング14位で終えた4号車グッドスマイル 初音ミク AMGはB組に出走する。14時18分、Q1担当の片岡選手がコースへと向かい、ウォームアップからシングル圏内で推移した。まずは計測4周目に1分26秒824とコントロールライン通過時点で5番手を記録した。他のマシンもタイムを更新していき、一時は10番手まで後退したが、続くラップで1分26秒569とタイムを更新。セッション7番手の“アッパー16”で谷口へと繋いだ。
GT500のQ1、GT300のロワー17のアタックを挟み、15時10分からポールポジションを争うQ2アッパー16のアタックが始まった。新ルールでQ1で使用したタイをそのままQ2でも使用することが全車に義務付けられている為、Q2担当の谷口はユーズドのタイヤでコースイン。丁寧に温め、計測5周目に1分26秒610と4番手の好タイムを記録した。
片岡選手の記録した1分26秒569と合計した2分53秒179は6番手タイムで、開幕戦は3列目からのスタートとなった。前方の5台はブリヂストン2台、ダンロップ2台、そしてミシュランが1台。4号車グッドスマイル 初音ミク AMGはヨコハマタイヤ陣営最上位のグリッドを得る結果となり、午前走り出しの"絶不調"を思えば上出来とも言える予選となった。
この新ルールでは、このQ1/Q2で使用したマーキングタイヤが翌日の決勝スタートタイヤでもある。決勝のス
タートダッシュで、前の5台にどこまで喰らい付いていけるかがカギになると予想された。
4月14日(日)【決勝】
決勝日を迎えた岡山国際サーキットは前日に引き続き朝から快晴に恵まれ、午後の決勝レースに向けて気温が上がっていくことが予想された。新たに映像を交えたドライバーアピアランスとシーズンのオープンングセレモニーが開催されたのち、正午から20分間のウォームアップ走行が始まった。4号車には決勝スタート担当の片岡選手が乗り込み決勝セットの確認を始めたが、まさかの事態に直面。
「予選であの(良い)バランスだったクルマが、ウォームアップを走った時点からあんなに……『まるで別のクルになっちゃった』ぐらいに変わっていて……」と、アウトインですぐにピットに引き返した。前日の予選後に行った僅かなセッティング変更が悪さしていると判断し、再度調整をおこなってコースに送り出した。そこからはチェッカーまで連続周回し、ベストは1分28秒834の15番手で、想定77周の300km決勝に向けた準備を終えた。
スタートを前に路面温度は39度になっており、日差しを考えれば更に上昇していく事が予想された。
13時30分、晴天の下、岡山県警先導のパレードラップと、それに続くセーフティーカー先導のフォーメーションラップを経て2024年の開幕戦がスタートした。
ス タート担当の片岡選手は、ローリングスタートから雪崩れこむオープニングラップの1コーナーの勝負にめっぽう強い。今シーズンの開幕戦でも、早速アウト側からのブレーキング勝負で前方の7号車(Studie BMW M4)と96号車(K-tunes RC F GT3)を仕留め、一気に4番手に浮上していった。
さらに片岡選手が3番手の61号車のオーバーテイクにかかろうとしたところでいきなりアクシデントが発生する。 GT500クラス、GT300クラスのそれぞれで同時に接触、コースアウトした車両が発生した為にセーフティカー
(SC)の導入が宣言された。
セーフティーカーによる先導走行からホームストレート上でのクラス分けを経て、レースは8周目に再開される。この時点でトップはポールシッターの65号車(LEON PYRAMID AMG)、2番手フロントロウスタートの2号車
(muta Racing GR86 GT)、3番手61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)、4号車は4番手でこの3台を追い掛けるシチュエーションとなった。
65号車は4号車と同じMercedes-AMG GT3だがタイヤはブリヂストン、2号車(ブリヂストン)と61号車(ダンロッ
プ)はともに車両の軽さを武器とするGT300規定車両。4号車はこれら3台にジリジリと離される展開となってしまった。しかも後方からはミシュランを装着した7号車BMW M4 GT3が迫ってくる。片岡選手は13周目に1分28秒814の決勝ベストを記録しつつ、背後の7号車からの揺さぶりを抑え込み続けた。
その後も背後の7号車とはテール・トゥ・ノーズ状態ながら、3番手の61号車とのギャップはジリジリと詰まっていき、29周目のアトウッドコーナーで一時は4秒以上離されていた61号車に追いついた。「向こうも完全に(タイヤが)終わっていた」というライバルのグリップ変動を見極め、ヘアピン進入を前に鮮やかオーバーテイクし、3番手へと浮上。
レース距離の3分の1と想定される25周を超え、ドライバーの最低義務周回をクリアしてミニマムのピットを選
択した陣営では、4号車の後方8番手スタートの昨シーズン王者52号車(Green Brave GR Supra GT)や、同14番手スタートの31号車(apr LC500h GT)など、ブリヂストン陣営のGT300規定車両が軒並み『タイヤ無交換作戦』を選択。
そうした状況を横目に4号車は33周目にルーティン作業へ向かった。給油とタイヤ4輪交換の"フルサービス" で谷口にスイッチ。13番手でトラックに復帰した。
谷口選手は他陣営のピットインで38周目には入賞圏内のトップ10に返り咲き、40周目に9番手、45周目には8番手と順調にポジションを回復していた。そして前方の96号車を挟んで6番手を行く5号車(マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号)を先頭とした、最大8台による集団バトルが発生する。
しかし、この時点で4号車は「もうとにかく"ド"アンダーだった。ハンドル1回転半回しても曲がらない(谷口)」と「僕的にはリヤは喰ってトラクションはあるので、タイヤがダメだったとは思っていないんですが……フロントが
いう厳しい状況に追い込まれており、96号車を追うどころか防戦一方の展開に。そして53周目GT500に追い抜かれるタイミングで背後の87号車(METALIVE S Lamborghini GT3)が仕掛けてきた。喰ってないので"ド"アンダー。もうその手前からアトウッドで全然コーナリングスピードが違ってて、(87号車の松浦)孝亮が毎回バックストレートで僕を伺ってくる感じ」と、並ばれた際にスペースがなく右車身のタイヤ2本をグラベルに落とし、この失速が響いて61号車と88号車(JLOC Lamborghini GT3)にも先行を許してしまった。
これでポイント圏外の11番手に転落した4号車だったが、59周目のダブルヘアピンで5号車が後続に追突されスピン、これで入賞圏内の10番手へ。その接触に対し61号車にはドライブスルーペナルティーが課されたことで、 66周目には9番手にポジションを戻した。レース最終盤で88号車の秒差圏内に追り「抜き返せるチャンスがあった」ものの、GT500との遭遇でオーバーテイクの好機をのがし、76周目に9番手でチェッカーを受けた。予選結果から順位を落とした形にはなったが、2ポイントながら3年連続で開幕戦ポイント獲得のスタートとなった。